疥癬と怪我の猫を保護した話

2022年夏の話

以前からときどき庭で寝ていたりする大きなオス猫くん

たまにおやつあげるくらいのつきあいで

彼はどこかでごはんは食べているようだった

5月くらいに額の毛が薄くなり、三本くらいの引っかき傷があった

オス同士の喧嘩かな、と一時的なものかと思っていた

それが予兆だったのだ

先代猫坊ちゃんのための花の苗を買いに行った

たまたま猫の譲渡会をやっていて、かわいい子猫がいっぱいだった

見学者もいっぱい

わたしが手を出さなくても幸せになれそうな子たちばかり(すでにボランティアに保護され安全な生活は送れているわけだし、すぐにもらい手もつくだろう)

と、帰宅して苗を植えた

疥癬の猫

その二日後の6月28日の午後 

花壇が見えるサンルームの靴脱ぎ石で横たわる黒白くん

暑い日でおなかがたふたふ波打っていた

後頭部だけ見えたけど、耳の毛がないような気がした

毎年夏頃になると蚊のアレルギーなのか耳はそんな感じでブツブツができていたりする子なので、そのときはそうたいしたことないかと思い、おやつでもあげようと庭にまわった

言葉を失うような形相

一見で「疥癬だ」と理解した

ベージュのかさぶたが分厚いフエルトのように覆っていて、目も開けられないような

口をあけてニャーと言った

あたまのスイッチが瞬時に入り、洗濯ネットを持ってきて、フードを食べているところを一気に包み込んだ

それでもすごい抵抗されたけど、なんとかキャリーに押し込んだ

動物病院には外猫を受け入れないところもある

夕方になっていて、動物病院を探すのが困難だった

どこでもウェルカムではない

あまり書きたくないし、書くだけで気も塞ぐのだけど

野良猫を嫌がる病院というのは現実にある

獣医というのはすべからく動物の命を大事に扱ってくれるものでは、と思うけど

汚いもののように扱い、触ることも見ることも拒否された病院もあった

有名な獣医らしく遠方から手術にも訪れるという評判のところだったのに

ブランドの血統書付きの犬だけ診たいのだね、と

突然予約なしで飛び込んでいやな思いを2件ほどしたので

まんべんなく携帯で問い合わせる

やっと一件、受け入れてくれた

電話で、外猫であること疥癬なことを伝えて、診てくれると言われたのは初めてだった

診察室で「家猫にしますので!」と言ったらみんな面食らったような顔をしていた

洗濯ネットから出そうとしたら、白いネットがびっくりすぐくらい汚れて匂う

血の匂いだった

なんと肉球がひどい怪我だった

まるく表面はとれ、赤い肉が全面にえぐれて見えている

疥癬は薬で治療できるけど、こっちの怪我のほうがひどかった

家猫になれなかった

あのままなら猛暑を乗り切れなかっただろう

わたしは動物という小さな命を幸せにしきれたことがない

庭に来る猫たちも、いつからかぱったり見なくなった、という傍観者のまま

子供の頃拾った猫も、そのままそこに置いてきた

唯一の飼い猫も心臓病で突然死で失った

なにも成し遂げたことがない

だからやっきになって家猫にさせよう、と自分勝手な罪滅ぼしに付き合わせたのかもしれない

かゆみで眠れず疲れが出たのか、数日はずっと静かに寝ていた

貧血も改善できて、元気がでたころから、ものすごい音量で泣き叫ぶようになった

ああ、元気になってきたんだな、と思う

足の怪我がなかなか治らず、包帯をしているのでエリカラも外せない

疥癬も完治できてないのでフリーにしてやれずケージ暮らし

去勢してないので気持ちが荒ぶる

いろんなストレスがあるのだろう、唸るように鳴き叫ぶ

ホルモンが作用して自分でも身の置き所がないのだろう、本人がいちばんしんどいんだろう

はやく楽になれるといいね、と去勢の日を待った

荒ぶるとき以外は、触れない子ではないのが助かった

ブラッシングはとても喜ぶ

食欲も旺盛で、ごはん催促の声がびっくりするくらい大きい

ずっと外猫で正直覚悟していたけれど血液検査の結果がすべてマイナスで逆に驚いた

年齢はよくわからない

見かけたときから逆算して3歳半くらいかと思ってたが歯の感じからもっと年を取っているらしい

よく今まで外でやってこれたなというくらい人なつこく、運動神経はちょっと鈍い

診察でもみんながおとなしい、おとなしい、と言う

でも、たぶん人を見ていて

病院で嫌いな男の人(獣医さん)の前ではおとなしい

わたしという甘いだけの相手はなめてかかっていたのだと思う

ある夜、部屋で就寝中に居間のほうからドスンドスンという音がする

まさかと思ったら、あの頑丈なケージをこじあけて外に出ていた

興奮状態の猫をつかまえられたのは奇跡というか、お互いに火事場のなんとかで力つきる感じだった

はじめて威嚇の声をだされて、ちょっと涙が出た

こんなにいやがることをさせてるのか、と哀しかったのだ

よかれと思って治療してるが、包帯も痛い治療も外でない家の中の生活も、彼にとっては苦痛でしかない

全身でいやだ、とおまえなんかきらいだ、と言っている

ひたすら「ごめんね」という気持ちで、片付けていた

床を拭くあいだも、頭上で「うー ぐるるるるー」という低い威嚇が聞こえる

彼自身がとても怖がっているのがわかって申し訳ない気持ちになる

結論をいうと

去勢が済み、ワクチンも2回すませ

外に戻すことにした

もう少し足のぐあいを見ていたかったが、包帯を外したばかりのまだ心配な状態でもあったので

でも猫自身のストレスが限界のようで、戻すしかないということに

ここでだいぶ落ち込んだのだけれど

よく外猫から家猫になった話を聞くけれど

どうしてみなができてることが、わたしには完遂できないのか

慣れさせるノウハウがなかったせいではないか、などなど思うことが多かった

あれだけ昼夜とわず絶叫していた猫くんは

外に出て行ってからひとことも猫の声を聞かなくなった

しばらく待っていたけどごはんにも訪れない

買いためていたフードももったいないので動物愛護センターに寄付した

そして、どこかで元気でいるならそれでいい、と諦めていたのだ