夢枕獏セレクト「鬼譚」で鬼いっぱいw

絶版本ですが、これを入手できて手元に置けること。至福であります。
夢枕獏 編著 「鬼譚」

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鬼まみれな珠玉のセレクション

坂口安吾の「桜の森の満開の下」は大好きな作品ですし、夢枕さんがセレクトした他の作品はどれもすさまじく鬼が冴え渡ったものばかり。
手塚治虫氏の漫画も、能の黒塚を題材にしたSF鬼女もので、もの悲しかった。

で、いちばんがつんとかっくらったのが、筒井康隆氏の短編「死にかた」なのでした。

筒井先生といえば、東野さんのエピでも登場したあれですが。

去年の暮れ、とある授賞パーティーで久しぶりに筒井さんにお会いしたら会場の隅で銀座のお姐ちゃんに取り囲まれている男を指差し『あれが東野圭吾だ。税金対策で毎晩銀座だ。おい、ヤハギ。生意気だから殴ってこい』と言う。少々酔ってて仕方ないから、そこまで行き、丁寧に挨拶して握手してしまった。

— 矢作俊彦 (@orverstrand) March 4, 2013

そんな、おもしろおかしい和服着た、たまにテレビで役者とかしてしまう人というわけではなく(そりゃそうです)、誰もがジーニアスと認める、革新的先進的な大作家であるわけで、書き出しからのけぞるのでありました。

奇策の書き出し、筒井マジック

しかし、なんなんでしょうか、あの出だし!

「その日突然、オニが会社にやってきた。」

はあい?

あとがき解説で、夢枕さんも書き出しに対して、これは!と言っておられますが、いやはや、誰もが驚くw

思うに、小説というのは嘘の世界なので、どんな作家もとりあえず、「こういう世界があって、こういう話が今からはじまるんですよ~」というしつらえる感じが冒頭にあるのが、まあ普通です。
ことに、SFという非日常の場合は、嘘くささを捨てるため、あらゆる手をつかって雰囲気作りが行われます。
映画でいうと導入部分で、きれいにすっと世界に入り込めるかどうかが大事なように、、、、

んがっ! ツツイ先生は、そんなことをここで、まったくしねーのだった(爆)

なんのエクスキューズもなく!
会社に鬼が来ちゃうのだった。
そして、またなんのエクスキューズもなく、ばったばったと金棒をふりまわして、社員を殺戮していく、ただそれだけの話なのですw

なにが面白いかといって、映画でいうとワンカメ(一人称視点)の手法で描写しているところ。
オレという一社員の視点で、そのさまが綴られるので、オチまでが冴え渡っています。

すっこーーーーんと爽やかなほど

嘘にまみれた話であるのに、非常にリアルに感じる描写。
鬼の息づかい、ちぎれ飛ぶ肉片、血のぬめり、その熱さ、恐怖の連鎖、どれもがまるであったかのごとく、、、

虚構の話なのに、嘘じゃないみたいな(笑)

書き出しからラストまで疾走感があり、まさに絶品w

作品が収録されていた文庫「バブリング創世記 (徳間文庫)」も絶版。
それを元ネタに相原コージさんが漫画化した作品は「筒井漫画涜本」にて読むことができます。

まさに、鬼才。筒井氏こそ鬼であったのでした