春のための花
花の苗を選ぶというのは心弾むものだろうと思う
庭の片隅を鮮やかに飾りつづけるための花苗選びは、いつも心寂しいものだった。
猫坊ちゃんのための花壇がある。
誰にもわからないけれど、猫のために飾り続けている。
ある年、寡黙な庭師さんが、そういえば猫はどうしました、と聞いた。
窓越しに作業を見ていた猫がいましたけれど、と。
病気で亡くなったと言うと、どこに眠っているのかと問われる。
あの花壇だと指し示した。
ああ、にぎやかな花壇だ、と庭師さんが笑った。
ただそれだけのことだけれど、
いつも花壇をどうしてそうしているか、その心根を察してくれたようで、嬉しかったのだ。
庭木の手入れをし終え、猫のための花壇に散った松葉などを丁寧に払ってくれたのも。
ほんとうに、ただそれだけの話だけれど。